【暮らし】ボンデンコの風習について

「ボンデンコ」とは、小正月行事に使われる儀礼具のこと。

下の写真のボンデンコは、仙北市角館町雲然で作られていたもので、角館の友人Kさんが蔵でたまたま見つけたものをひとつ分けていただきました。

   

フリーペーパーvol.6で、お彼岸に墓に供える削り花を特集した際、各地に伝わる削りかけ習俗のひとつとして、ボンデンコもご紹介させていただきました。(ブログはこちら▶

 

今石みぎわさんの論文「花とイナウ」には、『小正月の玩具で飾ったり、子どもらが嫁叩きや鳥追いを行った』とありますが、私の小さなネットワークでは、ボンデンコを実際に使ったことがある方にはまだ出会えていません。

 

今石みぎわ・北原次郎太著「花とイナウ」北海道大学アイヌ・先住民研究センター(2015年)

  

ボンデンコの風習は、角館に限らず、横手など秋田県内や周辺地域で確認されています。

似た形状の削りかけが作られていた事例が資料や文献に書かれていたり、秋田県立博物館の常設でも展示されています。呼び名は、ボンデコ、祝い木、祝い棒などさまざまで、地域によっては嫁叩き棒と呼ばれることも。

 

正直なところ、小正月に「妻の尻をこれで突いて子宝を願う」という風習を知った時は、あまり良い印象ではありませんでした。 

だって、棒で突かれて子どもを産むプレッシャーを与えられるなんて、精神的負担が大き過ぎません?

結婚後、何年も子どもが産まれなかったら「ボンデンコやったのになぁ~」なんて言われたりして。嫁にとっては辛すぎる。私だったら、耐えられないなぁ…と、密かに思っていたのです。

   

 

でも先日、職人さんからお借りした本を読んで、そんな気持ちが一変しました。

その本は、日本最古の説話集『日本霊異記』を元に書かれた小説で、この中にボンデンコの風習らしき一説がありました。

 

朱川湊人著「狐と鞭」光文社文庫(2020年)

それは、こちら。

『年が明けて最初の満月の日である小正月には、天皇が小豆など七種類の穀物を炊きこんだ粥をお召し上がりになるという望粥節句という儀式が、古くから朝廷で行われている。その粥を炊く際に用いた牧出作った杖で女の尻を打てば、必ずや男子が生まれると言われており、都住まいの貴族などもそれに倣って穀物粥を炊き、面白がって妻や愛妾の尻を叩いたものだたが、そんな楽しげな習わしが庶民にも広がらぬはずはない。いつの頃からか庶民も、その風習を真似るようになって、小正月の前には穀物を求める客で市は賑やかになる。』

 

  

「嫁叩き」って、しーんと静まり返った座敷?とかで粛々に行われていたものだと勝手に想像していたので、これを読んでイメージがガラリと変わりました。

ハレの日に、新婚夫婦がキャッキャ言いながら、親戚や家族がワイワイ言いながら、みんなで楽しめる行事だったなら、ちょっと楽しそうかも…?と。 

 

もちろんいつの時代も、子どもを授かって産むという大仕事を任された女性たちは、人知れず色んな思いを抱えながら生きているもの。出産にまつわるプレッシャーは、当人でなければ分からない呪いに似た重圧が、肩にズシッとのしかかります。

 

でもボンデンコが行われていた時代は、今ほど医学が発達していなかったからこそ、神秘の力を信じる純真さがあったと思われ、各地に存在していた子宝祈願の行事も、私たちが想像するより身近に存在していたのかもしれません。

今でいうイベントっぽい感じではなく、もう少し暮らしの延長のお楽しみとして存在していたのかもしれないなぁと、この本を読んで思いました。

 

歴史書や民俗本の解説からは、こうした情景まで浮かんでこなかったので、小説の力ってすごいなぁと思いました。

気付けば、いつも同じような本ばかり手に取って読んでいるので、こうして人から本を借りると新たな視点や角度があることに気付かされます。

自分以外の思考や視点をいかに取り入れて吸収していけるかが、広い視野を手に入れるヒントなのかもしれません。

 

  

 

 

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