Vol.8
森山印刷所

 

創業から106年を迎える愛媛老舗の「森山印刷所」。コンピューターの大きな印刷機が並ぶ工房の奥には、ドイツ製と日本製の重厚な活版印刷機が現役で稼働しており、さらに奥には部屋を埋め尽くすほどの膨大な活字が並んでいます。

圧巻の光景を前に感じるのは、築き上げられた時間の長さ。今回は、時代を生き抜いてきた印刷所についてご紹介します。

 

 

森山印刷所の誕生

創業は明治42年(1909年)。日本でも印刷業が大きく動き始めようとする時代に森山印刷所は誕生しました。創始者は森山政一さん。満州で活版印刷の技術を学んだ後、西条市壬生川に印刷所をつくり活版印刷機を導入。当時はまだ珍しい民間の印刷所として、全国の三等郵便局(現在の特定局)の局用紙を中心に印刷を手掛けていたと伝えられています。

印刷所の歩みを語るうえで欠かせないのが和紙の存在です。紙と印刷は切っても切り離せない関係にありますが、印刷所がある愛媛東部の西条市は水が豊富で綺麗なことでも知られている手漉き和紙の産地。今は数えるほどになってしまった紙漉き場も、最盛期には60軒ほどあったそうです。

和紙と活版印刷は相性が良いため、地元で漉かれた和紙に活版印刷を施すことも少なくありませんでした。印刷所の成長は和紙とともにあったのです。

 


大八車に印刷物を載せて運んでいた明治期の森山印刷所(写真:森山印刷所)

 

活版印刷とは?

活版印刷とは、鉛でできた活字を組んで版をつくり、専用の機械で紙に押して印刷する手法のことをいいます。

手順はこう。まず、棚に並べられている活字を拾って専用の箱に入れる「文選」という作業をおこないます。数千、数万個の活字の中から目的の漢字を探し出すのは気が遠くなるほど大変な作業ですが、職人さんは活字がある場所を「体が覚えている」といいます。また並べ方にも工夫があり、頻繁に使う漢字(森山印刷所では「愛」「媛」など)は、棚の一番見えやすいところに置かれています。

そして拾った活字を専用の枠に入れ、インテルと呼ばれる薄い板を活字の間に挟みながら字間や行間を整えていく「植字」という作業をおこないます。今やソフトを使えばフォント、行間、文字間、大きさ、ページ数入れなど簡単に修正できますが、活版ではそのすべて(余白さえも)を手作業でつくりあげていくのです。最後に活字がズレないように枠内で締め付けて固定したら、やっと版の完成です。

活版印刷の最盛期は、それぞれの作業を職人さんが分業していましたが、今はこの道40年の活版技師がひとりですべての作業を担っています。

 

 

技術の進歩とともに

活版印刷に陰りが見え始めたのは1980年代。コンピューターの導入と進化によってオフセット印刷の需要が増えるにつれ、徐々に衰退していきました。それに追い打ちをかけたのが活版に必要な銅版や活字の製造停止でした。どの分野においてもそうですが、生産(制作)に必要な部品や道具の生産がストップするということは、その技術が途絶えることに等しく、歯止めをかけることは容易ではありません。

スピード化と価格競争に巻き込まれ多くの印刷所が活版を手放しましたが、森山印刷所は活版印刷を辞めませんでした。それは見栄やプライドではなく、需要がある限りは続けていくという信念があったから。 今も活版印刷の需要は年々減り続けていますが、それでも数十年来のお付き合いになるという地元企業の名刺や封筒、領収証などを丁寧に印刷しています。

変わらずあり続けることが難しい印刷業界。でも五代目 森山さんは、築き上げてきた信頼を大切にすべく「活版印刷を必要とする人がいる限りは、これまでと同じように続けてけていきたい」と、穏やかな表情で話します。

 

 

活版の魅力

印刷はいつの時代も、いかに大量に早く刷れるかという課題とともに進化してきました。(私も日頃から活用している)コンピューターを駆使した印刷も、人が生み出した誇るべき技術です。でもその片隅で、時を越えて受け継がれてきた活版印刷には印刷の根源に立ち返る神秘さが宿っているような気がしてなりません。

ハイデルベルグ社製(ドイツ)のプラテン印刷機も、実直な仕事をする日本製のFuji-8も見惚れてしまうほど美しく重厚な存在感に包まれています。こんな大きな鉄の塊が心地よいエアー音(機械音)をシューシューと出しながら俊敏に動く様子は、初めて蒸気機関車を見た時の感動を思い出させ、つくづく人間って凄いなと思わされます。

印刷機にやさしく寄り添う職人の姿も印象的です。経験や勘を頼りに些細な機械音を聞き分けながら機械を操作をする姿は、人と機械のちょうどいい関係性を教えてくれているようです。

そして作られた印刷物には活版印刷特有の凹凸が刻まれます。凹凸がすべて良いとは思いませんが、紙と印圧とインクが見事にマッチした印刷物を見た時は背筋が伸びるような思いになり、印刷物をつくることデザインすることの責任について改めて考えさせられます。

 

 

こうした思いに浸ることができるのも、ひたむきに印刷業に打ち込んできた森山印刷所があるからこそ。ここから学ぶべきことは、まだまだありそうです。

(2015年12月)

 

有限会社 森山印刷所   
愛媛県西条市壬生川416−1
電話 089-864-1110  

 

 

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