Vol.7
吉井 昭二(吉井鬼瓦製作所)

 

心をのせた瓦屋根

ゆるやかな勾配の屋根に整然と並べられた瓦。どれくらいの時間が経ったのだろう、いぶし銀に深みが増し、瓦一枚一枚の表情がより豊かになっている。一見どこにでもありそうな日本家屋の瓦屋根でも、よく見ると先端に鶴や亀など縁起物の瓦が誂われていたり、巴瓦にも家紋が入っていたり。愛媛では、そんな細部にまでこだわった見応えのある瓦屋根と出会うことができる。

家を建てるということは、一世一代の大イベント(なのだろう)。だから家には、施主や家づくりに関わる人々の想いや願いが如実に表れる。瓦も同じ。外観の印象や耐久性としての機能はもちろんだが、ここに施主の人柄やメッセージを見ることができるのだ。

 

吉井さんが手掛けた民家の鬼瓦

 

瓦の種類は実に様々。例えば、お城でいうシャチホコがある場所にのせられた波しぶき「立浪型鳥伏間」や船の帆をイメージした「帆かけ」は、火事から家を守る火伏せの意味があるとされている。勇ましい鬼の形相をした「鬼瓦」は魔除け、家紋や松竹梅などの縁起物を誂えたシンボリックな「鬼瓦」や「七福神」「鍾馗さん」などをモチーフにした飾り瓦は、繁栄や福を招くという意味が込められている。

家を雨風から守るだけでなく、こうした人々の心をのせているということに気付くと、瓦がより身近な存在に思えてくるから不思議だ。

 

 

 

菊間瓦の鬼師として

愛媛県今治市菊間町に瓦の一大産地がある。ここでつくられる瓦は「菊間瓦」と呼ばれ、中四国を始め各地に出荷されている。菊間町で瓦産業が発展したのは、瓦に適した五味土が採れたこと、乾燥に適した気候だったこと、農閑期の人手があったこと、出荷の経路(海路)が栄えていたなど、いくつかの要因が重なったからと伝えられています。

吉井鬼瓦製造所の吉井昭二さんは、瓦のなかでも鬼瓦や飾り瓦などの造形を専門とする鬼師。国宝級(文化財)の仕事も手掛ける、この道60年の大ベテランだ。

瓦の種類やかたちは施主の意向に沿ってつくるのが常だが、鬼師は高い屋根の上で輝きを放つ圧倒的な技術力と、屋根の勾配にあわせてかたちをつくる想像力が求められる。

 

 

吉井さんの仕事場は、工場の二階。青々とした静かな瀬戸内海が見える窓際で原型をつくる。菊間で瓦産業を営む家に生まれ、物心ついた頃から鬼師を志していたという吉井さんがつくり出すかたちは、息をのむほどに鋭い。

「自分の作品がいつまでも残るじゃろ。ほやけん、やりがいはあるけど難しいんじゃがな」

手に持った粘土を迷いなく置き原型をつくりながら、淡々とした口調でそう話す。一度屋根にのったら100年は持つといわれている瓦。それだけに鬼師の責任は大きい。

 

 

 

ひとつとして同じものはない

瓦づくりは、原型製作→乾燥→窯入れという工程を経て出来上がる。吉井さんは、息子の治広さんとふたりで全ての工程を担っています。 長い工程だが、どれも気が抜けない大切な作業。特に乾燥はしっかり水分を抜かないと、焼成中に破裂してしまうことがある。焦りは禁物だ。

一点ものの瓦の場合、原型は内側(中心)に空洞をつくりながら外形をつくり上げていく。これは、型(石膏取り)を行わないために生み出された鬼師特有の手法だ。つまり七福神であれば、足元から順に外形をつくっていくことになる。吉井さんの仕事を見学させてもらう前までは、鬼師の仕事は彫刻家の作品づくりと似ているのかと思っていたが、まさに似て非なるもの。外形を追いながら見栄えを考慮し陰影をつくり出すのは、実に難しい作業だ。

 


お寺の飾り瓦「鷹」を復元に取り組む吉井昭二さん

 

そしてポイントは、鬼でも鶴(鷹)でも七福神でも見る人と“目があう”ようにつくること。

「下から見上げたとき、生きもんが生きてるかたちを、名人はつくりよる」。良い瓦について吉井さんはそう話す。

鬼瓦でも、棟にのせるものと隅にのせるものでは高さが異なるため、顔や目の角度、表情は微妙に異なる。もちろんそのためには、屋根の勾配にあわせ角度や距離をあらかじめ計算しておかなければならない。手でつくりあげる瓦に「ひとつとして同じものはない」のだ。


菊間町のかわら会館の鬼瓦。吉井さんなど鬼師数名でつくりあげた大作

 

菊間瓦が美しいワケ

菊間瓦が美しい理由は、その造形にある。愛媛の街をふらりと散策していると、瓦から強いメッセージを感じ、気付いたら足を止めていることも多い。「腕を競いおったんじゃけんね」。オリジナリティにあふれる瓦。それに磨きがかかった背景には、名人級の職人たちの技の競い合いがあったからだと吉井さんは分析する。

造形的に美しいのは、鬼瓦や鳥伏間に見られるダイナミックな立浪(波しぶき)のかたちだろう。足(下部)が大きいのが特徴的で、流線型のフォルムが美しさを際立たせている。神社仏閣に限らず、民家にも「どうだ!」と言わんばかりの見応えある立浪がのっている。 その堂々たるかたちは魔除けや火伏せに留まらず、海と共に生きてきた人々の気質と誇りを象徴しているように思えてならない。

 

 

 

魂をつなげて

鬼師は、原型を一からつくることもあれば、代々受け継がれている瓦を修復(復元)することもある。顔も知らない先人がつくった瓦を復元することは、その人の手癖まで真似しなければいけないため、ある意味でとても難しい。でも同時に、技を盗めるチャンスでもあると吉井さんは語る。

「この仕事をしよると、名人がつくった良い作品に出あえることがある。それを間近で見さしてもろうたら、つくったひとの手の塩梅が分かるんよ」。

修復という仕事を通じで、先人たちがつくった作品に触れ、さらに腕を磨いていく。そこには、時空を越えバトンを手渡されたような感覚があるのかもしれない。 職人とは、ただモノをつくるだけではない。歴史や文化を繋いでいく尊い存在なのだということを、ここ菊間町で改めて感じた。

 

(2015年8月)

 

●吉井鬼瓦製作所         
愛媛県今治市菊間町浜3375番地

 

 

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