Vol.6
石川 順一(和紙のイシカワ)

 

 愛媛の東端にある「四国中央市」は、香川、徳島、高知と隣接している珍しい地域で、松山からは車(高速道路)で1時間半のところにあります。最寄りのインターを降りて見えてくるのは、山の麓に広がる穏やかな街並みと煙突のある工場群。そう、ここは紙産業が盛んなことで知られる「紙のまち」です。

 

「和紙屋で何ができるのか?」から始まったこと

 石川順一さんは、ここ四国中央市で和紙屋を営む三代目。和紙について語り出したら止まらない和紙博士のような頼もしい存在で、様々な商品を開発しています。

 

 

 石川さんが生み出す商品は、いつも周囲を驚かせます。例えば、暖房効率を上げる障子紙や、コピー機に対応した印刷できる和紙、長い時間水に付けてもふにゃふにゃにならない紙ストロー、和紙の靴下やタオル、和紙で編んだ草履など。くすっと笑ってしまうものから、こんなの欲しかった!との声が聞こえてきそうな商品まで。インパクトがあるだけでなく、使い心地も抜群です。

 石川さんがこの和紙業界に入ったのは、28歳のとき。それまでは、和紙とは全く別の道を歩んでいました。大学で機械工学を学び、大手電機メーカーに入社。コンピューターの研究・開発に携わった後、アメリカのスタンフォード大学へ入学し、1年で修士号まで取得。

 そんな経歴を持つ石川さんにとって、和紙屋への転身はまさに大きな決断でした。
「相当考えました、和紙屋として何ができるのかってね―」。
 先代の跡を継ぐために入った和紙業界で、自らの知識や経験がどう活かせるか。考え抜いた末に始めたのが、和紙を使った新たな商品開発でした。

 

 

 

和紙の草履ができるまで

 和紙の草履をつくり始めたのは、今から20年も前のこと。四国中央市にある四国八十八ヶ所霊場「三角寺」へ行った時、祀られている草履を見て「これを和紙でつくれないか」と、思い付きます。和紙でつくれば藁クズも出ないし、汗もよく吸収する。石川さんは、こうした日常の小さな気付きを大事にしながら、発想を展開しています。

 しかし和紙で草履をつくるためには、耐久性のある和紙をつくらなければなりません。和紙の原料や構造を熟考しながら、実験に実験を重ねること数か月後…、ついに水で洗っても崩れない丈夫な和紙をつくり出すことに成功しました。打開策は、和紙の原料となる植物の繊維を多くしたこと。これにより繊維質の強い和紙をつくりだすことができたのです。もちろん植物繊維100%のため、履き潰したら土に埋めればそのまま肥料にもなる環境にも優しい素材です。

 

 

 

地域の人の協力と繋がり

 これらの開発は、石川さんの柔軟な発想から始まり、地域の人々や工場の協力によって実現しています。

 和紙の草履を編んでいるのは、地域に暮らす職人さんたち。リーダー的存在の福田盛廣さんは、農家の仕事をしながら草履を編んでいます。和紙の草履は、天気(湿度)によって素材の感触が変わるので、微妙な変化に対応しながら締め具合を調節していかなければなりません。藁で草履を編んだこともある福田さんによると、藁より和紙で編む方が難しいそう。

 草履編みは、屋内で静かにゆっくりというイメージがありますが、福田さんはの作業はスピード感にあふれています。こよった和紙を両足に引っ掛けたら、縦紐に横紐を巻き付けるように慣れた手つきで、シュッシュッシュッと編んでいきます。一見簡単そうに見えますが、実際は結構な力作業。

 

 

「疲れるよぉ、指ば」。そう言いながら、指先と腕に力を入れて編んだところを、ぎゅいっと締め上げていきます。美しくて丈夫な草履を編めるようになるには、とにかくたくさん編んで経験を積むことが一番だそう。力を入れるところと、ふっと優しく抜くところ、数をこなしていくと仕立ての勘どころが分かってくると福田さんは語ります。

 山に入り美しい木々と出会うのが好きだという福田さんの作業場には、不思議なかたちをした木や彫り物がところ狭しと並んでいます。いつも山に持って行くというホラ貝も。その日は特別にホラ貝を吹いてくれました。「ファオ~~~~ン」 静かな街に、独特の深い音色が響きます。

 晴れたら農家の仕事をして、雨が降ったら草履を編む。自然と上手に付き合いながら、時間を有効に使っていく、これが福田さん流のライフスタイルです。

 

 

 

技の伝承とこれから

 四国中央市の紙産業の起源は、江戸時代(中期)にまで遡ります。山谷で自生する楮(こうぞ)や三椏(みつまた)を原料に漉いていたものが里に伝わり、広く普及していったと言われています。明治末期にはなんと750軒もの和紙屋があったそうですが、現在も手漉き、機械抄き、紙加工、印刷業など、紙産業に関わる多くの工場が軒を連ねています。

 しかし手漉き工房は年々減少し、和紙商品も厳しい時代に突入しました。今日、石川さんが大切にしていることは「時代の流れに合った、他社にないオリジナル商品をつくる」ということ。和紙の魅力や可能性をしっかりと伝えていくために、ニーズをきちんと捉えながら時代とうまく付き合っていく。それこそが、技や文化を継承できる道だと考えています。

 

 

 石川さんと話をしていると、和紙のこれからが楽しみになります。可能性を秘めた素材が今後どう展開されていくのか、思わずわくわく。人をそんな気持ちにさせるものづくりには、きっと輝いた未来があるはずです。だから、石川さんの開発から目が離せません。

 

参考文献:「紙と文化のくに 四国中央」(四国中央紙産業振興協議会)

 

●和紙のイシカワ
 愛媛県四国中央市金生町下分1583

 

 

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