Vol.5
上甲 清(しめ飾り製作)

 

 年の暮れ。大掃除を終えて「しめ飾り」を飾るとき、いつも少しだけ特別な気持ちになります。無事に新年を迎えられることへの感謝と、新たな気持ちでまた一年頑張ろうという小さな決意が込み上げてきて、感慨深くなったり、高揚感に包まれたり。私にとってしめ飾りは、そんな節目をともに過ごす身近で特別な存在です。

 

 

愛媛にしかないオリジナルのかたち

 愛媛有数の米どころとして知られる西予市宇和町に、しめ飾りをつくる職人がいます。農家の仕事と並行しながら製作する上甲 清さん。手掛けるしめ飾りは、日々の暮らしにそっと寄り添ってくれるような素朴で上品なあたたかさがあります。

 

 

 ポイントは輪の中央に付けられた「宝結び」。連続する結び目に幸せや繁栄への願いが込められており、慶事などに用いられることが多い伝統的な結び方です。日本各地のしめ飾りを見て学びオリジナルのかたちを模索していたとき、愛媛・新居浜の神輿(太鼓台)に飾られた宝結びを目にし、しめ飾りに取り入れることを思いついたそう。上甲さんの発想が光る、唯一無二のしめ飾りです。

 

 

何事もやりながら学んでいく

 上甲さんが暮らす愛媛県西予市は、松山から車(高速)で1時間ほどのところにあります。山々に囲まれた穀物地帯で、一年を通して雄大な景色を眺めることができる自然豊かな地域に、ぐるりと首を回しても視界に納まりきらないほど広大な田んぼを持っています。

 

 しめ飾りをつくり始めたのは、高校を卒業した頃。ワラを綯う基礎的な技術は父から教わりましたが、米作りが盛んな地域、ワラで縄などを綯うことは珍しいことではありませんでした。当時は、しめ飾りを自作する家庭も多かったのです。

 

 

 しかし時が経ち、しめ飾りをつくる人は年々減少していきました。輸入ものの安価なお飾りの流通や生活スタイルの変化によって、わざわざ手間や時間をかけてつくる人が少なくなってしまったのです。

 でもそんな現状を横目に、研究熱心な上甲さんのワラを綯う技術は日に日に高まり、確かなものになっていきました。技術だけでなく、それらのかたちも。各地のしめ飾りを見て研究しながら、独自のスタイルをつくり上げていったのです。

 

 上甲さんがしめ飾りを製作しているのは、農機具などを保管する納屋の一室。両手でワラを挟んだら掌を擦り、ねじり合せるように綯っていきます。その手さばきは、まるで手品を見ているよう。一定のリズムを保ちながら、驚くほどあっという間に縄が出来上がります。

 

 

  高度な技はどうやって身に付けたのか。疑問に思って訪ねてみると、笑顔でさらりと答えてくれました。「なんでも、やってみながらよ。」肩の力を抜き、いつも自然体の上甲さん。見て学び、とにかくたくさんつくって勘をつかむ。これが大切だそう。農家に育ち、自然を相手に生きてきたからこそ持ち得た感性で、日々素材と向き合っています。

 

 驚くのは、しめ飾り用の稲を育てていること。米作りと同じように田植えをし、数か月かけて稲を育て、食用にはまだ早い青々とした時期(穂出前)に手で刈り取ります。機械ではなく、あえて手で刈っていくのは稲を傷付けないため。稲も穂が落ちにくいものや色味など、しめ飾りに適したもの。試行錯誤を重ねて選び抜いた品種です。

 

  なぜここまで徹底するかというと、しめ飾りをつくる時、ワラの状態や長さ、色は出来栄えを左右する大切な要素になるからです。去年より少しでも良いものをつくりたい、そんな上甲さんの向上心がひしひしと伝わってきます。

 

 

 美しさの裏側にあった徹底したこだわりと日々の努力。でもこうした製作過程を知ってしまったら、もったいなくてどんと焼き(※)なんて出来ない…(!)、そう思ってしまうのは私だけでしょうか。

 

 

その背景にある風土と人々

 上甲さんの周りには、気心の知れた仲間たちがいます。上甲さんが会長を務める宇和わらぐろの会のメンバーたち。この会は、宇和の自然風土を伝承していくことを目的に平成14年に創設され、農家の方々が主体となって風物詩「わらぐろ」を復活させたり、地元のお祭りに参加するなど、農家で培ってきた技術や知識、風土を活かしながら地域を盛り上げる活動を行っています。

 


写真:宇和わらぐろの会

 上甲さんがしめ飾りを一般に販売し始めたのも、この会が発足してから。地域を良くしていきたいという仲間たちの熱き想いや繋がりが、上甲さんの活力の源になっているのかもしれません。

 宇和町へ足を運ぶと、先人たちが築き上げた歴史と風土を、地域の人々が大切に守り続けていることを強く感じます。しめ飾りから和やかな雰囲気やあたたかい心を感じるのは、こうした風土と人々の想いが背景にあるからだということに気付かされます。

 


鶴の羽の部分をきれいに広げるため、二人がかりで製作する上甲さん(左)と岡本さん(右)
付き合いも長いので息もピッタリ!

 

 

オリジナルから伝統へ

 しめ飾りは、かたちも生産方法も(時に風習も)地域によって様々です。伝統といわれるかたちもあれば、近年つくり手が生み出した新しいかたちもあります。でも、そうした「違い」が地域やつくり手の個性を際立たせ、しめ飾りの魅力をさらに深めている気がします。

 

 ちなみに愛媛でよく見られるのは、テニスのラケットのような、ドリームキャッチャーのようなわりとシンプルなかたち。しめ飾り研究家・森須磨子さんの著書「しめかざり」によると、このしめ飾りは「しゃくし」と呼ぶそう。しゃくしとは、お味噌汁などをすくう調理器具(お玉)のことで、1年の福をすくいとるという意味があるそうです。

 

 上甲さんは、自ら手掛けるオリジナルのしめ飾りについて「この地域の伝統的なかたちというわけや(では)ないんよ」と、話します。しかし一般的とされるしめ飾りも、時代を遡れば誰かの手によって生み出されたもの。一人のつくり手が生み出したものが、多くの人に受け入れられ、愛され、やがて通例になっていくこともあります。伝統とは、伝えたい、守りたいという想いによって繋がっていくものなのかもしれません。

 

 

 上甲さんがつくるしめ飾りもいつしか伝統になっていくよう、今は大切に繋いでいきたい、そう思います。

 

※どんと焼き…しめ飾りなどを家々から持ち寄り、一箇所に積み上げて燃やす行事のこと。小正月(1月15日)に開催することが多い。


【参考文献】
 森須磨子著「しめかざり」(福音館書店)
 大島 暁雄著 「図説 民俗探訪事典」(山川出版社)

 

 

 

 

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