Vol.4
武智壽夫(竹細工職人/武工房)

 

 手に持った瞬間、ふわっと軽いのに、耐久性や使い勝手に優れている竹素材のカゴやバッグ。手に馴染む感じがどこか懐かしく、ほっとするところも竹ならではの魅力です。ひと昔前は、家の中をぐるりと見渡せばカゴやザルなど竹でつくられた様々な日用品がありましたが、それらはプラスチックなど素材の進化とともに減少し、今や希少なものとなりつつあります。

 しかしそんな中、美しい竹細工をつくる職人が愛媛にいます。武工房の武智壽夫さん。


 

 白漆喰の立派な商家が軒を連ねる愛媛南部の内子町で、江戸時代に建てられた民家を工房にして竹細工を製作しています。竹の製品が身近な日用品から希少な存在となりつつある今日。武智さんの生き方と製作スタイルには、学ぶべきことがたくさんあります。

 

 

ガラス戸はいつも開けながら

 武智さんの工房があるのは、内子町の重要伝統的建造物群保存地区。週末ともなれば観光客など多くの人が訪れます。大洲出身の武智さんがこの地に工房を構えたのは、竹細工をより多くの人に知って見てもらいたいという想いからでした。ただひとり、ひっそりと製作に打ち込むのではなく、人と出会うなかで竹細工を広めていけたらと考えたのです。



 そのため、冬でも夏でも1年中工房のガラス戸を開けて製作をしています。私が工房を訪れた寒さの厳しい2月も、戸を全開にして作業を行っていました。外とほとんど変わらない室温で、時には風も吹きこみますが、それでも「ガラス戸一枚がものづくりと人を繋ぐ障壁になってはいけない」と、作務衣の下にダウンジャケットを着込み、毎日こうして製作をしています。

 それが功を奏してか、ふらりと訪れた観光客やご近所さんとは自然な流れで会話が生まれ、気が付けば談笑に。武智さんの周りには、いつも和やかな空気が流れています。

 


 

60歳を過ぎてからの挑戦

 熟練職人の風格を感じさせる武智さんですが、実は定年退職後に竹細工を始め、この道を歩み始めてまだ6年というから驚きます。それまでは大阪の化学メーカーに勤め、研究器具などの製作に携わっていました。退職後に京都の伝統工芸大学校へ58歳で入学。昔からものをつくることが好きだったため竹細工の道を選び、ひと回りもふた回りも若い世代に混じって3年間基礎を学びました。

 定年退職後に趣味を嗜む人は少なくありませんが、武智さんの場合は少し違います。
「人生を変えるにあたって、酒もやめたね」。
 その言葉からうかがえるのは、想像をはるかに超えた大きな決意。入学後は、朝一番に教室へ行き掃除をしてみんなを迎え、夜も一番遅くまで残って技術習得に必死に取り組んだそう。“第二の人生”にかける想いは、人並み以上のものがありました。

 やるからには徹底したいという考え方は昔から。「どんなセクションだろうが、一生懸命努力してやらなきゃいかん」。会社員時代も、環境がどうであれ限られた時間のなかで最善の努力を尽くしてきたという武智さん。今も目標や成すべきことがあるから、朝から晩まで座りっぱなしの作業をしても、まったく苦にならないと話します。

 

 

 時折り見える体育会系のガッツと爽快な前進志向。お聞きすると、若い頃からトライアスロンに打ち込んできたそう。スポーツで鍛え上げてきた精神力と基礎体力、そして何より諦めないという強い信念が武智さんの技術習得の速さに繋がっているのかもしれません。

 

 

編み目文様の美

 工房に並べられた作品は、文様の美しさが目を惹きます。「網代編み」と呼ばれる伝統的な編み方は、文様のリズムが心地良く竹の表情の豊かさに驚かされます。網代編みに波のような変化を加えた「波網代編み」も美しく、どうやって編んでいるのだろうと見入ってしまうほど。

 竹ひごの色を変えたり、編む間隔に変化を付けたりすることで、豊かな表情をつくり出しているのだそう。同じ竹ひごでも、編み方ひとつで全く違ったものになるところに、竹細工の面白さがあります。また編むことで強度も増すため、耐久性に優れた逸品となるのです。

 

 

 日常的に布や革のバッグは使っていても、竹のバッグを持っているという人はそう多くないはず。和装でないと持ちにくい印象もありますが、武智さんがつくるバッグは側面を革で仕立てたものや気軽に使えるポシェット型などもあり、気兼ねなく洋服に合わせられます。「つくるうちに、もっとこうしたらいいんじゃないか、この方がいいんじゃないか」と、思いつくそう。伝統的な手法を活かしつつ、今の時代にいかに使ってもらえるかを追求する熱い職人魂が、作品から伝わってきます。

 

 

しなやかに生きる勇気

 「最初は不安だったなぁ。うまくいくのかなぁってね」。当時を振り返り、本音をぽろりと話してくれた武智さん。何もかもが初めの60歳代からのスタート。人生経験が豊富だからこそ、たくさんの不安もありました。

 しかしスタートから6年経ち、武智さんがつくる竹のバッグは今や5ヶ月待ちという人気商品に成長しました。裏地や大きさなどセミオーダーできる竹のバッグは、使い手に合った仕様にすることができるため注目を集めています。でも、「1点1点、丁寧につくりたい」。お待たせしてしまうのは申し訳ないけれど、焦らず丁寧に、竹としっかり向き合いながら日々製作に勤しんでいます。

 

 

 常に挑戦し続けている武智さんの生き方は、何か新しいことを始めるのに、歳はあまり関係ないということを教えてくれます。そしてその作品は、生きていくためのしなやかな勇気を私たちに与えてくれるのです。

(2015年3月)

●武工房(たけこうぼう)           
〒791-3310 愛媛県喜多郡内子町城廻227

 

 

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